IT社員の公私混同2

ゲーム開発者が、映画、ドラマ、アニメと言った趣味について書くブログです。

【感想】すずめの戸締り

よかった。
物語の結末と過程が美しく適合した作品だった。

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本作は主人公のスズメが、未来と過去を取り戻す物語だ。ストーリーが進むほどに、観る側はスズメが取り戻す物が何かを深く理解できる様になっている。
スズメが取り戻す未来とはソウスケ自身とソウスケと歩む人生だ。そのソウスケは、呪いをかけられ、体を失い、中盤にはソウスケはあの世につれていかれてスズメの元を去っていく。
旅を通してスズメは人とソウスケの信念や人格を知っていく。ソウスケは震災の様な厄災が及ぶのを防ぐために旅をしていること、時に自分を犠牲にしても人を救おうとしていることなど、旅を通して将来をともにする彼の触れていく。観る側にもソウスケの人間性が十分に伝わってくる。何よりスズメとソウスケの深い縁があり共に未来を歩む必然性があることがわかる。
スズメが取り戻す未来がストーリーを追うごとにはっきりと深く理解できる。

一方、過去とは、あの日、3·11のときに失われたものだ。その一つは、自分の命を尊ぶ心である。3·11を経験は、自分の命が軽いものだと思わせる衝撃があった。街が流され、母親を始めとした自分の大切なものを多く失った彼女は、自分が生きているのはただ運がよかっただけで、あの時に死ぬのは自分でもおかしくなかったと思っている。旅を通じでスズメは何度も死ぬのは怖くないと叫んでいたが、それはこのマインドを端的に示していた。
もう一つはつらい記憶とともに閉じ込めてしまった母親との思い出や母と共に過ごした故郷である。旅の途中、スズメとソウスケは、人々との出会い、その場所に生きる人々の日常が描かれる。神戸で出会うシングルマザーの家族が象徴的だか、それらスズメがあの日失ってしまったものだ。彼らの生活とそして彼らが暮らした故郷の美しい景色こそが、あの日、スズメが失い記憶の奥底に沈めてしまったものだ。旅の描写を通じで、スズメが失ったものの大きさがわかる。

また、この未来と過去を象徴するのが、椅子である。スズメの母がつくった過去からの贈り物に、スズメの未来を支える人格が宿るギミックのを設定したのは実に見事だ。
これをスズメが求めることで、意識的に取り戻したいと思っているソウスケだけでなく、無意識に取り戻したいと思っている過去を手に入れる結末を違和感なく描けている様に思う。

また、本作のテーマである「とじまり」という過去への向き合う態度も、非常に説得力があった。
つらい過去と共にある思い出を、記憶の奥底にしまうのでもなく、常に意識するのでもなく、戸締まりしておくというメッセージは腑に落ちた。

心の中のいつでも戻ってこれる場所に、記憶をおいて鍵をかけておくくらいだったら、頻繁に思い出して苦しくなることもないし、思い出すべき時に思い出せる、そういう思い出との距離感の捉え方は新しく感じたし、この作品のテーマの深さを感じた。

この本作はこの様なテーマだったり、物語の結末が非常に説得力があり、これまでの新海誠の作品と比べても傑作だった。