IT社員の公私混同2

ゲーム開発者が、映画、ドラマ、アニメと言った趣味について書くブログです。

【感想】ハケンアニメ ※ネタバレあり

最高。

アニメ業界で視聴率争いをするという、サブスク全盛の時代にはそぐわない展開だったが、それを凌駕する様々な良さがある。日曜劇場的なお仕事ドラマの展開、友情・努力・勝利というジャンプ的なアツさ、未熟な主人公がアイデンティティを確立して成長していくという王道ストーリーなどなど、良い物語の要素を複数持っている傑作だった。

※ネタバレありです

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天才のつくる作品を超えようとする困難なプロジェクトへ挑む姿は、下町ロケットにて佃製作所が帝国重工に挑む姿と同じ構造で、それだけでムネアツ展開だ。職人一人ひとりが、こだわりを持つが故になかなかうまくいかないが、そのこだわりが、うまく噛み合って、この困難なプロジェクトを大きく進展させるという展開も日曜劇場でよくみるものだ。

また、柄本佑が演じるプロデューサーと吉岡里帆が演じる監督との熱い絆も本作の魅力として見逃せない。いがみあっていた二人が、いつしか思いを一つにして、大きな壁に立ち向かう、友情、努力、勝利、ジャンプでみたあれがこの映画にはある。ちょっと今時ではない題材、「視聴率争い」もジャンプ的な展開を演出するのに効果を発揮している。
 尾野真千子が演じるプロデューサーと中村倫也演じる監督との関係も同じだ。

そういった多くの作品でみられる良さに加えて、本作独自の「アニメを題材にした強み」が本作のオリジナリティーを高め、日曜劇場とは一味も二味も違うものにしている。それは、言わずもがなアニメという題材を丁寧に扱っているということだ。
本作は、劇中オリジナルのアニメが登場するが、その出来は、登場人物たちが、心血を注いだことことがわかる様なクオリティーの高さになっている。そのアニメを見れば、「この世界にいればきっと私もこれがささっていた」と思わせてくれる。
さらに、登場人物たちのがんばりによって作中のアニメが高いクオリティになっていることは、多くの日本人にとってこの作品を特別なものにしている。
「アニメを見て人生が変わった」なんて言う人も別に珍しくない時代に、「誰かの人生を変えるような作品」を真摯につくる人間の姿を描く本作が「刺さる」人は少なくないだろう。本作は、いわば、アニメ制作の現場からアニメ好きに届いた一種のラブレターの様な作品に仕上がっている。アニメ好きが観れば、「俺たちのアニメへの思い」は決して一方通行ではなく両想いであると確信させ、それ故にアニメの作り手との絆を実感できる。それ故にアニメファンは心が揺さぶられ、この作品を特別なものにしている。

そして、もう一つの忘れてならない本作の良さがある。それは、コンテンツを作る側の人間にとって、これ以上ないハッピーな作品だということだ。「誰かの人生を変えるような傑作をつくる」と、どの作り手も思っている(いた)。ただ、世の中は厳しくて、様々な事情で、その願いが実現できないことも少ない。しかし本作の主人公たちは様々な苦難を乗り越えてそれを実現する。そんな姿をみたら、もしかしたら自分のこんな作品をつくれるのかもしれない、そんな思いをまた抱けてしまう。「誰かにさされ!」と力強く願いながら、ペンを握ったり、キーボードを叩こうと思えてくる。作り手として生きていく力と勇気をもらえる。

余談だが、私が観た時は、柄本裕がDVDの予約数を見たあのラストシーンで、拍手している人がいた。その行為につられこそしなかったが、日本では非常に珍しい行為が決して不思議には思えなかった。それが「ハケンアニメ」だ。